工業所有権専門委員会/機械翻訳WG
1.活動概要
近年、ニューラル自動翻訳の性能が向上し、特許明細書の翻訳にも実用化が進んでおりますが、高精度な翻訳を保証するためには翻訳者による編集が不可欠であるため、ニューラル自動翻訳のさらなる高精度化が望まれています。
特許明細書の翻訳に資する高精度なニューラル自動翻訳の実現は、外国への特許出願を容易にし、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の会員企業のみならず、全ての日本企業にとって外国特許出願の促進と、それによる国際競争力の維持や向上に寄与するものと考えています。
日本企業共通の課題である特許明細書の翻訳コストおよび翻訳時間を大幅に削減する革新的な取り組みとして、JBMIAのみならず全ての企業・個人の知財活動を支えるインフラの充実という目標に向かって、取り組みを進めて参ります。
2.参加企業
現在の参加企業は以下の通りです。(50音順)
キヤノン株式会社
コニカミノルタ株式会社
シャープIPインフィニティ株式会社
セイコーエプソン株式会社
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
富士フイルム知財情報リサーチ株式会社
ブラザー工業株式会社
リコーテクノリサーチ株式会社
(以上8社)
3.委員会の沿革
2019年10月:工業所有権専門委員会の傘下に発足。JBMIAと国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が共同で開発しJBMIAの技術分野に最適化させたニューラル自動翻訳エンジンに関して、市場で利用可能なニューラル自動翻訳エンジンの翻訳精度と比較しながら、実用性の観点でフィージビリティ・スタディを開始いたしました。
以降、本WGでのNICTの機械翻訳エンジンの検討活動をベースに2021年4月より会員企業向けに導入されたJBMIA専用自動翻訳サービス(ProTranslatorETS)を用いてアダプテーションエンジンを含む複数の機械翻訳エンジンに関する品質評価を行いました(専用サービスは、現在、12社が利用中)。また、機械翻訳の誤訳を防ぐための日本語記載ルールの制定や特許明細書の日本語の明晰化に関する検討を行ってきました。
現在は、明晰な日本語に基づく特許明細書を効率的に作成するための支援ツールの検討を行っています。特許明細書の日本語をリライトして機械翻訳結果を評価することにより、機械翻訳を利用する上での日本語の明晰性に関する重要なポイントを抽出し、明晰化支援ツールの仕様の作成に取り組んでいます。
4.主な活動内容(成果等)
・2019年度
NICTと共同開発しJBMIAの技術分野に最適化させたニューラル自動翻訳のフィージビリティ・スタディを開始し、自動翻訳文が米国特許出願明細書の翻訳文として使用可能かという実用性の観点でベンチマークを設定し、NICT開発のニューラル自動翻訳及びGoogle翻訳の品質評価を実施しました。
・2020年度
2020年度前半は、フィージビリティ・スタディの結果をNICTにフィードバックすることによりニューラル自動翻訳エンジンの更なる高性能化に貢献すると共に、後半は「日本語明細書の品質改善」および「ニューラル機械翻訳の効率的な使用」の二つのテーマを設定し、ニューラル機械翻訳を使用する際に誤訳の生じにくい日本語の作成ルールならびにニューラル機械翻訳から出力された英訳文の効率的なポストエディットの方法を検討しました。
・2021年度
2021年度は、引き続き「日本語明細書の品質改善」の検討を行い、ニューラル機械翻訳の誤訳を回避するための36のルールを「特許技術者と特許翻訳者のための日本語ルールブック(第一版)」としてまとめ、会員企業様向けに配布いたしました。また、2021年4月より会員企業向けに導入されたJBMIA専用自動翻訳サービス(ProTranslatorETS)に関する品質評価を行った後、6月より追加で実装されたアダプテーションエンジンの作成機能に関して、電子写真分野の用語集に基づく比較的少量の高精度な教師データを用いたエンジンを作成し、予備的な評価を行いました。
・2022年度
2022年度は、前年度の電子写真分野に続き、インクジェット分野に関する用語集を整備し、4000対弱の高精度な教師データを用いてアダプテーションエンジンを作成後、電子写真分野とインクジェット分野の特許明細書に関する機械翻訳結果の比較評価を行いました。下期には、特許ライティングマニュアル「産業日本語」(一般財団法人日本特許情報機構)および上記「日本語ルールブック」に基づき、特許明細書の日本語の明晰化(リライト)を行い、明晰化前後の特許明細書に関して複数の機械翻訳エンジンによる翻訳結果の比較評価を行いました。また、機械翻訳を用いた外国出願明細書作成のワークフローに関して、導入モデルの検討や導入済み企業の事例共有等を実施しました。
・2023年度
2023年度は、これまでの翻訳エンジンへアプローチする活動から原文へアプローチする活動へと転換することで、より日本語にフォーカスした活動を行いました。具体的には、明晰な日本語に基づく特許明細書を効率的に作成するための支援ツールを検討し、①機械翻訳成功率を向上させるために有効な「日本語明晰化の視点」の明確化と②その視点に関して、WGの要望を満たす既存ツールの有無調査を行いました。
一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)
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